保険診療と自由診療について② 整形外科編

保険診療と自由診療について② 整形外科編

ねむり姫の老い支度 

2024/7/19

二十代前半で出産して以降、慢性的な腰痛に悩まされてきた。整形外科にも行ったし、整体にも通ったし、ここ数年はヨガを始めたりして30年以上だましだまし腰痛とともに生きてきた。
去年の12月のことだ。朝起きぬけに腰に激痛が走った。今までとは明らかに違う痛みでベッドから起き上がることができなかった。突然のことに動揺したがトイレにも行きたいし何とかしなければならない。私はもぞもぞと左右に身体を揺らしながら掛け布団にくるまると、頭の方からそっと布団ごと滑り落ちた。そして布団から這い出ると、ほふく前進でトイレに向かい何とかトイレのドアノブに手をかけて戸を開いた。やっとこさ便器に座り用を足しながら考えた。
二度と歩けなくなったらどうしよう。廊下に手すりを付けようか。いや、歩けなくなったら、そもそもそういう問題ではなかろう。とにかく整形外科に行かなければ。痛みに耐えながら部屋着の上からコートを羽織り、物置にあった木の棒を取り出した。夫が富士登山に行ったときに使った金剛杖が家にあったことを思い出したのだ。金剛杖にしがみついて何とか外に出てタクシーを拾うと地元の整形外科医院に行った。
レントゲンを撮ってしばらくすると名前を呼ばれて診察室に入った。医師はレントゲンを見ながら骨に異常はないと言った。
「少し安静にしてれば良くなると思うので痛み止めと胃薬と湿布薬を二週間分出しておきますかね。必要なら提携している接骨院を紹介しますので受付で紹介状を受け取ってください。お大事に。」
この間、医師はレントゲンを見ながらカルテを書いているだけで私の身体を触診するどころか、そもそも私の顔も見てはいない。私が無言でいるので、ようやく医師がこちらを振り向いた。
「何かご質問ありますか?」
「痛み止めは歯科医院でいただいたものがまだ残っております。胃薬も湿布も薬局で買ったものが家にございますので結構です。」
私の語気が怒りを含んでいたことを感じ取ったのか医師は急に
「じゃあ、MRIなんか撮ってみます?ここでは機器がないのでMRI撮影専門の病院をご紹介します。」
などと愛想よく言い出す。結局同日に撮影をすることになり、またタクシーでMRIを撮りに別の場所に移動する。そこでは念のため複写も含めて5枚のCDを受け取った。
日常生活に支障が出るほどの痛みを経験して、改めて二足歩行の動物特有の腰痛というものの厄介さに辟易する。腰は正に『身体の要』だと痛感した。私はネットを使って全国の腰痛専門病院を調べ、腰のMRI画像が入っているCDを5件の病院に送付した。結果二つの病院から治せるとの連絡があった。ひとつは東京の病院で、もうひとつは大阪の病院だった。通院の便を考え東京の方の病院に行くことにした。
ILC国際腰痛クリニックは完全予約制である。予約日当日、午前中は検査と手術内容の説明、同意すれば午後から施術を受けられる。手術といっても日帰りで入院の必要はない。ほとんどの方は術後元気に自分の足で歩いて帰れるという。クリニックは羽田空港に近いところにあるので外国からの患者さんも多い。私が行った日は中東からいらしたような出で立ちの男性や中国語を話している人もいた。医師たちは英語であれば直接やり取りできるが、医療通訳を雇う場合は患者負担による別料金である。
問診票を記入した後、レントゲン写真とMRIの画像を見ながら私の腰や股関節の稼働域を医師が丁寧に触診し確認する。
「年齢相応の椎間板の劣化が見受けられますね。ヘルニアにはまだなっていませんが時間の問題かな?当院のセルゲル法は傷んだ椎間板に金属を含んだゲル状インプラントを特殊な針で注入します。椎間板自体には神経が無いので表面麻酔だけで手術可能です。朝起きたときに感じるズンとした痛みは良くなると思います。若干の『すべり腰』の傾向もありますね。こちらの方は今の段階では温存療法が適当かと思われます。」
欧米では腰痛治療でこのセルゲル法は一般的だが、日本ではこの施術ができる医師が非常に少ない。このクリニックでは医師たちは外国で技術を習得している。詳しい施術方法は以下の動画をご覧いただきたい。治療費は自由診療で一括前払いである。金額については治療内容によって変わるのでILC国際腰痛クリニックのホームページよりお問い合わせ願いたい。

表面麻酔があったとて身体の中に針が入っていく過程ははっきりと感じられる。串刺しおでんの気持ちがよくわかった。ゲル状インプラントが充填されるとお腹の膨満感が強くなる。腸が押される感じで便意をもよおしてきてお腹が苦しい。施術時間は1時間弱である。その後は回復室で1時間ほど安静にしなければならない。最後にリハビリの説明を聞いて帰宅という流れである。
1か月後、病院直営のリハビリセンターに行き、理学療法士による腰や股関節の可動域及び生活習慣の確認を受ける。電子カルテは病院から送られてきているので理学療法士はそれを見ながら患者ひとりひとりに必要なリハビリ運動を指導する。私の場合は通勤で毎日徒歩で往復1時間歩いているしヨガもやっている。体重も二十歳の頃より増減が無い。教わった腰痛運動とヨガと併せて毎日入浴後1時間、自分でリハビリできるなら通う必要は無いと言われる。腰痛もとどのつまりは『生活習慣病』なのだ。
実際術後半年近くたつが術前の痛みを10とするなら術後は1になった。以前は朝起き上がるのに一苦労であったがパッと起床できるようになった。家族からも姿勢や歩くスピードが変わったと言われて嬉しい。
手術を受ける前は動画を観て怖かったが思い切って受けてよかった。私は日本の医療制度について詳しくはないが前記事「保険診療と自由診療 ~皮膚科編~」 ↓ にも書いた通り、患者にとって治療方法の選択肢が多いことはとても幸せなことだと思う。
年齢相応に身体のあちこちに支障がでるのは仕方が無い。『老いる』ということは何かをひとつずつ諦めることでもある。しかしながら私は人生の新しい段階がやってきたのだと前向きに捉えている。自分自身の健康を大切にすることで家族との生活も大切にできると考えている。保険診療自由診療、どちらの診療内容が優れているかという話ではない。どちらも上手く使い分けて昨今よく巷で言われる「QOL(Quality Of Life)」を向上させたい。
👑ねむり姫👑
最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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