12月になると日本において欠くべからざる視聴娯楽は「忠臣蔵」と「第九」だが、個人的には「クリスマス・キャロル」(原題:A Christmas Carol)もそうではないかと昔から思っている。言わずと知れた英国の文豪チャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)の中編小説である。わかりやすい筋立てと心温まる大団円で年末の時期に相応しく、舞台ではミュージカル仕立てで上演されることが多い。
皆さんは「東京キネマ俱楽部」というイベント会場をご存知だろうか。所在地は東京都台東区根岸1丁目だが、「鶯谷」の旧繁華街と申し上げた方がわかりやすいかもしれない。何度も再開発の話が出ては立ち消え、よくも悪くも昭和の夜の世界の等身大模型のようだ。極彩色のネオンに縁どられたファッション・ホテルに挟まれて、間口二間ほどの飲み屋さんや昭和歌謡喫茶などが肩を寄せ合って今も営業している。JRの線路に架かる凌雲橋の袂(たもと)のビルの六階に「東京キネマ俱楽部」はある。この会場の前身は1970年代まで繁栄を誇った「グランドキャバレー」だ。今の若い方に「グランドキャバレー」と言うと「大きいキャバクラのことですか?」と真顔で訊かれるので説明が難しい。
この「キネマ俱楽部」で「クリスマス・キャロル」が上演されると聞いてのこのこやって来たわけだが、何か間違えたのかしら?正面玄関には誰もいない。薄暗いビルに入って反応の悪い古いエレベーターで階を上がっていく。ドンと大きな音がして六階に着くとエレベーターが観音開きにゆっくり開く。
「ようこそ、スクルージ家のクリスマスへ‼」